2017年5月ニュースレター:津久井やまゆり園の建て替えの件に思うこと



以前、精神病院に長年入院して、
その後入所施設に入り、
そこから、グループホームに移行した方が、
私の施設に入ってきたことがあります。

この、病院~入所、
そして、地域移行するというのは、
住まいも日中の場も
一緒に変わるわけで、
ものすごく不安な状況だと考えていました。

施設になれることは後回しで、
まずはグループホームでの暮らしを
優先するべきだと
担当の相談支援事業所にも話しましたが、
グループホームに入っても
日中は、一人でいることもできないので、
日中支援施設を利用することになるわけです。

長年、施設にいた人が、
地域の中で住むということは、
私たちが考えるよりも
大変なことだとご理解いただきたいのです。

道を歩く。(施設の中と外では違う)
バスに乗る。
食事を買いに行く。
職員がいないところで、他の住人とうまくやる。
お金の使い方。
健康管理。
知らない人にSOSを言う。

「衣食住」と「働く」ということと、
何もかもが、
すべて同時に新しくなってしまうことの
恐怖もあると思います。

ですから、地域移行支援をする場合は、
入所施設にいる間に、
充分になれる準備を
していくべきだと考えています。

その方は、
道路で歩いているときに転んで骨折したり、
夜職員がいないホームで
住人の方とうまくいかず、
不安定になって、
精神科に再入院。

そこから、またやり直し。

簡単ではなかったようです。

だから、入所施設にいる時の
地域移行のため役割は大きいのです。

さて、
津久井やまゆり園の事件後、
建て替え工事に関して、
様々な意見が出ています。

私は、この業界に入った当時から、
個人的には、
施設というもの自体も
好きではなく、
ましてや入所施設より、
グループホームが良いと思っています。

そして、今、グループホームより
一人暮らしがよいのではないかと思う利用者の人を
支援しています。

いつか、うちの施設も、
施設という枠から出て、
知的障害がある人の働く場になるために、
自力でお金を稼げるようになりたいとも
思ってるところです。

さて、日ごろから、
施設というものに対し、
利用者の皆さんにとっては
よくない部分を見ている私の、
今回の建て替え工事について、
あくまでも個人的な意見として、
書かせていただこうと思います。

結論から言うと、
今は、皆さんがいっしょのところに
戻れるようにしたほうがよいのではないかと
思っています。

とりあえずです。

これは、
ふたつの理由があります。

いきなり、彼らの「普通の生活」であったことが、
事件によって、「普通ではなくなった」わけですから、
知的障害がある彼らの今までの生活に戻すことが、
まず彼らのこころや生活の安定になる。

そこから、積極的に地域移行を進めて、
地域移行ができる段階になってから移行する。

そういう意味です。

もし、私が、何らかの原因で、
今までいた家に住めない状態であるなら、
まずは、今までレベルの家を確保すると思います。

そこに住みながら、
よりよい家を探すかもしれません。

再度言います。

地域移行は必要なことです。

でも、いきなりではなく、
そのための支援という準備が必要なのです。

津久井やまゆりの入所者の皆さんは、
地域移行の段階にあったと思います。

利用者を主体とし、
利用者の皆さんの人権を大切にした支援をしている
法人さんだからです。

かといって、
今すぐに地域移行ができる状態ではない入所者の人も
多いのではないでしょうか?

その状態にない人を地域移行するというのは、
先にも書きましたように、危険なのです。

何が何でも、
入所施設がダメなのではないのです。

この事件によって、
様々な制約もあったことでしょうから、
まずは、安心ができる住環境を
作ったうえで、
その人その人にあった地域移行を
進めたほうがよいのです。

地域移行は正論なのです。

私もそう思います。
でも、津久井やまゆり園の皆さんにとっては、
今じゃない。
それだけのことです。

ここで、
支援者たちの正論が、
津久井やまゆり園で支援を受けてきている
彼らのためになるのか、
考えてみませんか?

もちろん、今まさに
地域移行ができる入所者の人も
いらっしゃるはずですので、
その人はグループホームでも良いと思います。

それぞれの、もともとの状態を
確認するべきでしょう。

今までいたところから、
外的要因で住まいを変えざるを
得なかった人たちです。

その人にとって望まれる
地域移行は、
全員同じでもありませんし、
まずは、安定した生活を
得た後でも遅くはないと思います。

積極的に地域移行の支援をしていただき、
その地域移行というものを
彼らにも安心して取り組んでいただくためにも
まずは、安定したもともとの状態を提供することも、
彼らにとって必要な支援だと、
私は考えます。