親が入所施設に子を預ける理由



これをお読みということは、
あなたご自身が、
障害者福祉のことをよく知らない方で、
施設のこともよく知らない状態で、
「なんで、親は子供を入所施設に預けたのだろう?」と、
疑問を持たれたのかもしれませんね。

相模原の入所施設で事件が起き、
あなたは、疑問を持たれたのかもしれません。

何で子供を預けているのだろう?
親が見ていればよかったんじゃない?

そう思われるお気持ちは、よくわかります。

実は、親自身も、自分の子供を
好き好んで入所施設に預けているわけではなく、
泣く泣く、預ける方もいらっしゃるので、
私が知っている限りのことで、
あなたの疑問に答えできるのかなと思い、
これを書きます。

知的障害や自閉症と言われる人に
会ったことはあっても、
あなたが知っている人は、
たぶん、おとなしい人だったり、
ひとりで電車などを使って、
通勤通学ができる人かもしれません。

では、どういう人が、
入所施設に入っているのでしょうか?

まず、多いのは、親がいない人です。
もしくは親が高齢になった場合です。

子どもがまだ若いころは通所施設にいた人でも、
子どもが50歳過ぎれば、親は80歳を超えるなど、
もう、ご自身のお身体のことが精一杯の場合、
子供の面倒は見ることができないかもしれません。

たとえば、車いすの人で、
お風呂も、親御さんが入れているおうちもあります。
大人の身体が動きにくい人を、
高齢の親御さんが入れるのは大変なことです。
そのうち無理な年齢になってきます。
すると、入所施設に預けようかな?
と考えられるようにもなってきます。

私たち健常者と言われるものの親は、
せいぜい、大学卒業程度までは、
面倒を見てくれるかもしれません。

でも、障害者の親は、
子どもが、60歳になっても70歳になっても、
自分が生きている限り、面倒を見ます。
お金の面でも、日常生活に関しても。

もちろん、一部の知的障害者は
親から離れて生活する人もいますが、
ほとんどの場合が、
高齢の親が面倒を見ることになります。
亡くなるまで、
自分の子供を一生見続ける親もいるのです。

特に支援(手伝う部分)の度合いが多ければ大きいほど、
子供の面倒を見る率は高くなります。

先日も、もう70代後半のお母さんが、
40代後半の息子さんを連れて、
歩いていらっしゃいました。
彼が通う通所施設に迎えに行き、
その帰り道のようでした。

一緒にいなければならない場合、
こうやって毎日を親御さんは、
子どもと一緒に過ごす人もいます。

あなたが、会社に行く朝と帰り、
親御さんが毎日送ってくださることを
想像してください。

そのお母さんは、学校時代も含め、
そういう生活を、
40年くらい続けている計算になります。
お子さんひとりでは通えないからです。

とにかく、親が自分の体に
気を使わなければならない年齢になった場合、
もう入所施設に預けようよと、
私たち職業的支援者から提案することもあります。

辛い別れになることを提案して、
泣く泣く了承をしてくださる方もいます。

また、子供が、強度行動障害という障害があり、
家のなかで暴れたり、
ものを壊したりする場合があります。
そういうご家庭は、
親御さんは体中傷だらけになることもあり、
親御さんの命の保障もする理由で、
施設に入所を勧める場合もあります。

お子さんがこういう行動をする場合、
親なら止められるということでもありません。

なぜかというと、
職業的支援者でも、
難しい人たちだからです。
ひとりひとりの障害が違いますが、
支援の技術(スキル)が問われる方だからです。

それに、親御さんは、
子どもが生まれてから、
一生懸命に学んで、
対処できる時もありますが、
例えば、親御さんの接し方が理由でない原因で、
ご本人に、急に嫌なことがあり、
嫌なことが起きた!の表現として、
パニックになって、
親御さんにも危険な場合もあるのです。

もちろん、そういうお子さんであっても、
急な嫌なことがなければ、
穏やかな人たちです。

お子さんと言っても、
お母さんより背が高い人もいます。

母親と成人した息子というイメージで
考えていただければ、
少しわかると思います。

成人した息子が暴れるようなことがあれば、
母親は危険ですよね?

そういうイメージです。

ただ、間違ってほしくないのは、
障害がある子供も
障害があるゆえに、
困ったことや嫌なことがあった場合に
暴れる人もいますが、
先ほども書いたように、
嫌なことや困ったことがない状態、
つまり、「障害がない状態」の日常を
作りあげられれば、
このようなことは激減します。
ただ、いつ何時、
本当にどんなけがになるかわかりませんので、
入所施設に入っていただくこともあるのです。

また、ご家族も働かなければなりませんから、
家族全員で四六時中、
障害がある子を見ることもできませんし、
夜もゆっくり眠れなかったり、
その障害がある子がいることで、
様々な家族生活が成り立たなくなる場合や、
例えば、障害がないご兄弟に影響があったり、
家族で、他の病気などで、
やっぱり一緒に生活ができないご家庭もあります。

こういった理由で、
ご家族が見ていきたくても、
残念ながら見ることができなくなった場合や、
家族の事情を見た上で、
私たち職業的支援者から、
冷静に判断して、ご提案することで、
入所施設を決断していただく場合も多いのです。

私たち職業的支援者からお願いしても、
「皆さんの迷惑になるから、
最後まで親が面倒見たい」と
おっしゃる方もいます。

でも、こういうお子さんの行動は、
親御さんのせいではないのです。

障害があるお子さんを抱えることで、
生活そのものに困難が発生し、
その親御さんにもまた違った意味での
「障害」が発生する場合もありますので、
親が子を入所施設に預けるのは、
全くもって、悪いことではありません。

こういう事情をご理解いただければ、
あなたご自身に、
支援がたくさん必要な
障害があるお子さんが
生まれた場合をイメージしたときに、
「何故預けるんだ?」とは
思わないでくださると思います。

家族にも安心した暮らしは必要ですからね。

今は、
たぶん、そういうことと知らずに、
「何で家族が見ないの?」と
思われたかもしれませんね。
その考えはある意味当然のことだと思います。

でも、今、私が書いたのは、
それぞれのご家族の
ほんの一例ではありますが、
少しはご理解いただけたと思います。

入所施設は、入所の審査もあり、
簡単に入れるものではありませんし、
数が増えているわけでもありません。

彼らも、入る時に、
自分の意思表示ができにくい人もいますが、
仕方なく、家族お互いの生活や命のために
入所施設に入る人もいます。

それに、小さいころに、
親に育ててもらえず、
入る子供用の入所施設(児童入所施設)もありますが、
そういう場合は
大人になった場合に、
大人の入所施設に入る人もいます。

事情がなくて入っている人はいません。

そして、家族などが面倒が見れるのであれば、
入所施設は入れません。

高齢者施設と同じようなイメージです。
支援が多く必要な人ほど入れますよね?

そんな、障害があるご家族のご事情をご理解いただき、
障害がある子を育て、
親が子の一生を
見ることができないことも
ご理解いただき、
入所施設という施設の役割を
改めてご確認をいただきたいと思います。

あなたのおうちの周りには、
入所施設が、非常に少ないはずです。
障害者差別の歴史の中で、
山の中に建てられることも多くありましたので、
見たことがないという方もおいでだと思います。

もし、関心がありましたら、
あなたのお住まいで一番近い入所施設はどこか、
お調べになってみてください。

行政のホームページで、
「障害者 入所施設」で
検索していただくと、
出てくると思います。

障害者福祉の世界を
「知ること」を
お願いできればと思います。

*追記*
この文章の中に、
「面倒を見る」という言葉を多く使いました。

通常当法人では、親であっても
「子の支援をする」という言葉で
書くことが多くありますが、
今回は、一般の方にわかりやすいように
「面倒を見る」と書かせていただきます。

また、これは一例であり、
入所施設の他に、
グループホームや
ひとり暮らしなどの方法で、
自立をしている人もいることを
お含みおきください。