自閉症の人でこだわりがあり、
一度始まるとやめてくれず、
やめさせようとすると、
また、こだわりの最初から始まってしまう。
しまった!声かけるんじゃなかった!
という経験は、
こだわりが強い人と接していると
誰でも少なからず通る道です。
私がまだ20代の時に担当した利用者の人は、
ある朝、険しい顔で施設に来たとたん、
突然、2階の窓から、
相当のものを投げ捨て始めました。
やめるように言うと、余計に物を投げ、
私自身が止め方もわからず、見ているしかなく、
次の日もその次の日も同じ行動でした。
この状態がしばらく続きましたが、
だんだんに表情は和らいでいきました。
でも、その片付けを自分ですることは
ちょっと嫌そうにしていました。
彼女はハンカチを持つことが苦手でした。
そこで、調子の良さそうな時に、
「今度から(投げるのは)ハンカチにしたら?」
と提案しました。
嫌いなハンカチを窓から投げることに
すんなり変わり、
回収も簡単なので楽しそうに取りに行く。
すると、そのうちやめてしまいました。
続けることを促しても、
「やらない」と言って終わりました。
もともと、不安が強いと何かを破壊してしまう人ですから、
なにかでイライラしていた心が
安定したのだと思われます。
こだわることを
やめさせたわけではなく、
変更提案をしたというあたりがよかったのかもしれません。
では、なぜ彼女はこだわっていたのでしょう?
それは何かのSOSだと思うのです。
この彼女のこだわりも、
最初は、家から施設に来るまでに
何かがあったのだと思います。
不安なことや困ったことがあり、
そのSOSの表現として始まったのではないかと考えます。
それをやったほうが、不安が解消し、
安心や安全が得られたとなれば、
自分を落ちつかせる行為だったのではないでしょうか?
実は、私たちにも、こだわっていることは
多くあるのです。
ただ、それは、他の人に迷惑のない範囲で、
また、人に見えない部分でこだわっているのです。
それをしたほうが、
安心を得たり、安全だったりするからで、
いつもと違うやり方をしようとすると、
これでいいの?と急に不安になるからです。
私たちは、心を落ちつかせるために、
たとえば、音楽を聞いたりしたとしても、
こだわりとは言われません。
趣味と思われているからです。
彼らのこだわりは、形も様々で、
支援者からは納得しにくい行為のことも多く、
何で毎日そんなことをするのか?と
支援者が不思議に思うことから、
「こだわり」というレッテルを張られ、
やめさせようとされてしまうのではないでしょうか?
でも、もしかしたら、
何か不安なことがあったり、
イライラしたことがあって、
その行為をすることで、
落ち着いたという経験があれば、
彼らは、自ら心が落ち着くための行動を
しているだけなのです。
こだわりと称されるものが、
そのための行動だと解釈すれば、
こちらは怒ることもなく、
やらせてみるのもよいと思いませんか?
ただ、水を流しっぱなしにしてみたり、
トイレの紙を大量に使ってつまらせるなど、
どうしても、「お金がかかる」ことに直結すると、
やめさせたい反動が来てしまいます。
ですから、やっぱり、
何に不安定になっているのか?を
考えてみてほしいのです。
ことが始まってからやめさせようとしたりすると、
逆効果で、さらにそこに固執する傾向が
あるよう見受けられますので、
普段の様子から、何が嫌いなことや不安なことなのかは
探って、事前の不安を取り除くための
支援を入れておきたいところです。
もし、可能なのであれば、
嫌なことや安心できることについて、
話し合ってみるのもいいかもしれません。
そして、こだわりを他のものに変更させるという場合も
タイミングを見計らい、ご本人の安心するものを
提案する形でしてみてください。
どちらにしても、その行為をしている最中には
止めようとしても無駄なことと思って、
他の機会やチャンスを狙ってみましょう。
ただ、こだわりそのものが危険な場合もありますから、
それは早めに変更したいものです。
こだわりは悪いことというレッテルの前に、
やはり、その行動の意味を考え、
受け止められる支援者になりましょう。