お世話になっているから言えない



知的障害がある人の親御さんが
よく使われる言葉です。

こういうふうに言って下さるのは、
外部の人間だからこそであったり、
同じ施設の職員であれば、
信頼が出てきたからこそ
言って下さる場合もありますが、
ほとんどは、
同じ立場のお母さん同士で
お話ししている言葉ではないでしょうか?

30年以上前のことですが、
私がこの仕事を始めたころに、
あるお父さんがおっしゃっていました。

「息子を人質にとられている」

この言葉は、
非常に重く感じました。

まだ20代の自分には、
そういう気持ちを持たれない職員となり、
支援をしていくことだと感じた一言でした。

そして、様々な親御さんに関わる中で
皆さん、笑いながらの場合もありますが、
「職員になんか言えないわよー」
とおっしゃるのです。

その理由が、
お世話になっているから。

こういう気持ちで、
お子さんを施設に預けて、
特に入所施設ですと、
この気持ちはさらに強くて、
何も言えないと思う方も
多くいらっしゃるようです。

でも、
その気持ちや行動を
今日から変化させていただけないでしょうか?

私が今までも
これからも言い続けるのは、
まぎれもなく、親御さんは、
お子さんの代弁者であると思うからです。

親子の考え方は一緒ではないにしても、
彼らが一番に頼りにし、
何かの時に助けてくれる
存在であることは間違いありません。

ですから、施設や学校、病院など、
彼らを取り巻く事業所から、
いざという時に
彼らを守る存在でいて欲しいのです。

職員たちに、
「お世話になっている」という感覚を
取り除けないかもしれませんが、
サービスを使うのは、
権利としてあります。

そのなかで、
もし、万が一、
自分のお子さんが、
よき支援を受けられない状態の場合、
代弁者として、
意見を言えるようになってほしいのです。

そこは、
中心に自分のお子さんを置いてよいのです。

職員に気を使い、
こんなことを言ったら、
職員に何と思われるだろうかと
悩むことはありません。

それこそ、人質ではないのですから。

職員も良かれと思ってやっていますが、
利用者にとって苦痛だと
気づかない人もいます。

ですから、一番気づく、
親御さんが、その気づきを
相手に伝えて欲しいのです。

間違ってやっていることに
気づかせてくれるあなたに、
文句を言うどころか、
感謝をされることでしょう。

ですから、
あなたは、職員に
「間違ってますよ。こうしてくださいね」と
伝えることが、
お子さんを助ける手段でもありますし、
職員を助けることにもなるのです。

お世話になっているからといわないでいることは、
お子さんにも
苦痛を続けてもらうことにもなりますし、
職員も間違ったままの支援で、
もしかして人権侵害につながったり、
虐待であったりした場合は、
職を失うことにもなりかねません。

あなたが、
お子さんのことも、
お世話になっていると
感謝している職員であれば
なおさらのこと、
堂々とあなたの思っている
お子さんの「代弁」を
していくことです。

勇気もいるかもしれません。
不安かもしれません。

でも、今の状況をより良くするために、
職員と喧嘩をするつもりではなく、
「それは、障害がある人にとってよくないと思うよ」と
一般論で伝えてみてくださいね。
多分そのほうが言いやすいですから。

もし、どうしても言えない場合は、
他の親御さんに相談をして、
一緒に行ってもらうことも良いと思いますし、
家族会の意見として言っていただくのも良いですね。

さて、その時に、
ひとつだけお願いがあります。
「私の子」だけに
有益になるような視点ではなく、
全ての知的障害がある人のことを想いつつ
行動に移してほしいのです。

自分のお子さんだけの代弁者となって、
主張ばかりするのはいただけません。
あなたの発言は、
他の利用者にとっても、
有益なものであるべきです。

ですから、そういう視点を忘れず、
全ての障害がある人のためとも思って、
勇気をもってお話しください。

こういう一言の力が、
たくさん集まることで、
全国の知的障害がある人の
より良い生活に結びつくのです。

ひとりの力が、
大きな力の一石になりますように、
そして、職員を育てる一助となりますように、
あなたの支援者としての力を
出していきましょう!